テニスクラブのContrast 〜どーなってんの、金曜日の対比。〜

金曜日は2人の少女にとって不可解な日だった。

「どーも、こんにちわ…って、どないしはったんですか?
ようけ(たくさん)湿布と絆創膏つけて…」
「いや、ちょっとね…ブツブツ
「大したことねーよ。、んなデータフェチに構うな。」
「???」

「やあ、さん…」
「…こんにちわ。あ、あの…?」
「ああ、気にしなくていいよ、ちゃん。鳳クンは昨日ちょっと色々あって疲れてるんだ。」
「……………。(そういう貴方もちょっとやつれてない?)」

そーゆー訳で金曜日のレッスンは始まる。



さんの場合』

さんにとって何が不気味かというと、彼女担当のメインコーチ殿が
妙に親切さんな時である。

何せ今までの5日間が5日間だ、彼女がそう思うのも無理はない。
特に昨日は彼女を取り巻く状況が悪化したので尚更だ。

故に、もし跡部氏が突然まともな態度に出たらさんとしては
『何があったんや』と思わねばならないのだが
今日はまさにその『何があったんや』であった。

昨日自分のメインコーチに散々ボールをぶつけた(ただし過失)さん、
本日彼女は黄色い球体達の間で呆然とへたり込んでいた。

一体何をやらかしたかと言えばボールを入れた籠にけっつまずいたのである。
何でそんな阿呆なことになったのかと言えば、『さっさと来い』という
コーチの命令に慌てて従おうとした
結果だったりするのだがそれはともかく。

さんは冷や汗流しながらすんごく焦っていた。これが焦らずにおられようか。

只でさえドジを踏む度にコーチにえらい目に遭わされるのに、球なんぞ散らかした日にゃ
どれだけ罵倒されるかわかったもんじゃない。

さんはテニスボール達に囲まれ、小さくなってプルプル震えていた。
ついでに自分の背中の心配なんぞもしてみたりする。(蹴られまいかと思って)

そこで『何があったんや』が始まった。

「大丈夫かい?」

まずさんを心配したのは当然ながら逆光眼鏡のサブコーチ、乾氏だった。
彼はへたりこんで『う゛ー…』と唸る少女の側に駆け寄る。

「怪我はないみたいだな、取りあえず一緒にボールを片付けよう。」
「はい、スミマセン。」

お二人さんはメインコーチのことは眼中にない。
そうして乾氏がさんと一緒にボールを拾おうとした時だ。

 ガスッ

跡部氏がかがんだ乾氏の背中をいきなり足蹴にした。

「あ、跡部、一体何を…」

乾氏がずり落ちる眼鏡を直しながら微妙に抗議するが、
毎度の如く俺様コーチは聞いちゃいない。

「ウルセー、てめーはさっさとそこどけ。」

乾氏を追い立ててさんから思い切り遠ざける。
更に跡部氏は何がどうなったのかわかんなくてポカンとしているさんにこう言った。

「オラ、。一緒に拾ってやるからさっさと手ぇ動かせ。」

…………………。
今、何とおっしゃいました?

さんは一瞬、近所の駅ビルにある耳鼻科に行った方がいいだろうかと思った。
だって聞き間違いとしか思えない。

いや、寧ろ現在起こってること自体幻覚としか思えないので
脳外科に行った方が賢明かもしれない。

何てったってあの跡部氏が、短気で事ある毎にさんを苛めるあの跡部氏が
『一緒に拾ってやる』と言ったのだ(偉そうではあるけど)。さんが驚かないわけがあるまい。

「あ、えーと…」
「ボケ面さらしてんじゃねーよ、早く拾え。夜になるだろーが。」

相変わらずくそ偉そーではあるが、この人にしてはまだご親切な物言いである。
しかも何を血迷ったのか、跡部氏は乾氏が2人を手伝おうとすると
『来るんじゃねー』と追っ払っている。

そこでさんは思った。

何があったんや?!

これは明らかにおかしい。何か絶対ある。

今までの散々な虐待のおかげですんごく疑り深くなってるさんだった。


さんの場合』

さんはさんでここ5日間と少々違う事態にやや戸惑っていた。

大体さんとこのパターンと言えば

 1.千石氏の暴走→2.鳳氏(もしくは神尾氏)による鎮圧

とこーなってるのだが、今回はそーじゃないんである。

こんな書き方だとまるで千石氏が暴動か何かの化身みたいだが始めの頃のさんの
イメージがそうなってしまってるのでいたしかたない。

「それじゃちゃん、今日もはりきって行こーね☆」
「はい。」

今日も初っ端からテンションの高いメインコーチに返事をするさん。
が、彼女はふと違和感に気がついた。

「…………。」

いつもだったらここで『あんまり飛ばしすぎないでくださいよ』と
千石氏に釘を刺しそうな鳳氏が沈黙状態なのだ。

「おーい、鳳クーン?大丈夫?」
「えっ、あっはい!」

鳳氏はやっと気がつくが、まだ何か目が泳いでる。
その様子を見てさんはロールプレイングゲームで
役に立たなくなった呪文使いみたいだなと、
とんでもないことを思った。

「うーん、まだ昨日のショックが抜けてないみたいだねぇ。」
「昨日のショック?」
「いや、こっちの話だよ、ウン。」

珍しくごまかす千石氏にさんは再び首を傾げる。

一体全体、何があったんだろう。
まさか、彼女の親友がまた何かしでかしてその上鳳氏を巻き込みでもしたのだろうか。

なんて考えてたさんだが千石氏に目を向けている内に
そんなことなぞ頭から吹き飛んでしまった。

昨日起こったとーとつなる変化(さんの友によれば
『一目ぼれのふぉーりんらう゛』)の威力は凄い。
ついでにそんなんで一挙にさんの思考の範囲外に押しやられた鳳氏は哀しい。

ちゃーん、やるよー?」
「は、ハイ。」

密かに少女マンガ的トキメキなんぞを感じながら、さんはラケットを握る。

「じゃ、フォームのチェックするからねー。あれ、どーかした?顔赤いけど?」

千石氏が間近に迫ったのでさんは慌ててブンブンと首を振る。

ここでやっぱり鳳氏が同僚を引っぱりに飛んでこなかったので、彼女はあれ?と思った。

ま、それはともかくさんはさっそく千石コーチにフォームをチェックしてもらうこととなった。
なるべく教わったことを頭にとどめながらボールを打ってみる。

「よしよし。」

千石氏は自分の生徒の様子に満足してるよーだ。
さんが自分の好みであることも多分に含まれてるかも
しれないがそこは深く考えてはいけない。

「大分よくなってきたねー。後はもーちょっと思い切ってやればいーんじゃない?
ね、鳳クンもそう思うよね?」
「………何か、固まってるんですけど。」

さんは、自分のサブコーチをピッと素早く指さして言った。
実際そのとおりで、鳳氏は何だか心ここにあらずの状態だ。

「おーい、鳳クーン。」

メインコーチの方は同僚の目の前で手をパタパタさせたり、肩をポムポムしたりしているが
効果はまるっきしない。

あんまりにも反応がないのでさんは一瞬、鳳氏を軽く蹴飛ばしてもいいものかどうか
99%本気で考えた。

相手が鳳氏ならば、訳を話せば問題ないかもしれない。

しかし。

「あっ!」

さんの計画(?)は鳳氏の声であっさりと挫折した。

「やー、鳳クン。気づいたんだね、よかったよかった☆」
「すっ、スイマセンっ、またボンヤリしてたみたいでっ……ゴメンよ、さん!」
「いえ…」

バッタか何かよろしくピョコピョコ頭を下げまくる鳳氏に
さんは何気なく答えるが、内心は『チッ、あっさり気づいたか。』である。

「どうしたんだろ、俺……レッスン中にまでこんな…」
「まーまー、気にしない気にしないっ!昨日のあの後じゃ仕方ないって。」

鳳氏がここまでなるなんて、昨日自分とが帰った後に何があったのだろーか。

何だか気になってしょうがないさんだった。


普段偉そうな俺様コーチが親切さんに、普段真面目なサブコーチが注意力散漫の金曜日。
どーにもこーにも妙ちきりんだが、詳細が明らかになるのはこの後である。


さんの場合』

いきなし自分とこのメインコーチが親切君になって
すこぶる気色の悪い思いをしてたさんだが
も一つ腑に落ちないことがあった。

言うまでもなく、サブコーチの乾氏のことである。

とゆーのも、いつもなら跡部コーチのさんに対する虐待(?)を防ぐ役の彼は
今回、自身が同僚に虐げられてるからである。

「オイ、。グリップがおかしーぞ、ちゃんと握れちゃんと。」
「はっ、はい!!」
「握っている場所が1ミリずつずれてきてるな。今後の彼女の課題は握力の強化…」

 ドギャッ

「いーからテメーはすっこんでろ!!」

乾氏がブツブツと呟いた途端、跡部氏はその背中にケリを入れる。
当然ながら、乾氏はその場にぶっ倒れてしまう。

「う、うわー…」

ラケットを振るってたさんはそれを目撃して冷や汗をたらした。

「いいんですか、こんなことして…」

さすがの気弱な彼女もこればっかりはコメントしないわけにいかない。

「いんだよ。」

対するメインコーチ殿は自らが倒した同僚の背中を踏みつけて答える。(with 腕組み)

「こんな逆光眼鏡、居ても居なくても世間に支障はねーよ。」

それって世間では『俺様発言』とゆーんですよ。
さんは思ったが、言ったら自分も蹴られそーなので黙っておく。

「……何か言いてぇのか、。」
「いえ、別に…」

さんは首をブンブン横にする。危ない危ない。
乾コーチの二の舞は御免だ。

「跡部の台詞が…俺様的だと…思った確率95.55%…」
「テメーは起きんな、ずっと寝てろ!!」

 ゴインッ

丁度起きようとしていたサブコーチをメインコーチは事もあろうに今度はぶん殴る。
再び倒れる乾氏。

「あわわわわ。」

さんは顔から血の気が引くのをイヤっちゅーほど感じねばならなかった。

「あの…何かあったんですか?」
「アーン?」

生徒の素朴な質問に、しかし跡部氏はこう言った。

「テメーにゃカンケーねーよ。それよりさっさとコートに入れ。」

そゆ訳で、ぶっ倒れた乾氏をほっといたままさんは跡部氏とラリーをする羽目になった。

 パーン パーン

「ほぉ、ちったぁマシになったな。テメーにしちゃ上出来じゃねーの。」
「は、はあ…」

やっぱり気色悪い。

さんは思った。

この人が褒めるなんちゅーことするなんて。

ここで間違っても『褒めてたのか、アレ?』と突っ込んではいけない。

跡部氏の言い方は傍で聞いてりゃ褒めてんだかそーじゃないんだかよくわかんないが
今まで散々けなされっぱなしだったさんから見りゃ充分な褒め言葉なのである。

「あ。」

しかし、褒められた(一応)矢先にさんはボールをあらぬ方向にすっ飛ばしてしまった。

無論、次の瞬間彼女は怒声を覚悟する。
が。

「ま、失敗したモンはしょーがねーな。」

跡部コーチは微笑してそれだけ言った。

更に気色悪い。

ここしばらくのパターンから考えたら確実に

『テメェッ、!!ふざけてんのか、ああっ?!』

と怒鳴り散らすというのが妥当な線だ。

しかし、幸か不幸か、事態はそうならなかった。

「今のショットだとラケットの角度をもう5度くらい傾けた方がいいな…」

いきなし後ろから吐息交じりの呟きが聞こえて、さんは一瞬硬直した。
振り向くとさっきまで跡部氏にどつかれてノビてた乾コーチが後ろに立っている。

「やあ。」

逆光眼鏡のお兄さんは呑気に手を挙げた。

「ど、どーも。もう起きはったんですか。」

てゆーか、いつの間に、とも思うがそれは黙っておく。多分言わなくても気づいてるだろう。

「ああ、何とかね。でも、やめといた方がよかったかな。」
「何でですか?」

少女が尋ねた瞬間。

ゴインッ

「ギャンッッッッッッ!!」

 ドサッ

「…気の毒に。」
「何でテメーが当たんだよ、バカ!!大体乾、テメーは起きてくんなつったろーが!」
「だから俺にボールをぶつけようとしたのか、やれやれひどい奴だな。」
「ハン、俺様がひでぇんなら昨日のテメーなんざ人非人だろーが、このデータ眼鏡!」

頭の上からサブコーチが冷静に言うのとメインコーチが怒鳴り散らしてるのが聞こえるが
後頭部に大ダメージを食らったさんはそれどころではない。

「とにかくテメーは引っ込んでろ、邪魔だ!」
「跡部、それじゃ俺がいる意味がない。それに、仕事の能率が20%低下するぞ。」
「アーン?んなこと知るか、人が大変だったってのに1人データ取ってた
野郎の言うことじゃねーな。」

あーやこーやと言い合うコーチ達。

あーもー何でもええから。

そんな彼らの足元で、後頭部のえらい痛みに1人虚しくのた打ち回りながらさんは思った。

私の心配してくれや!!

どこまでも運のない少女、

ちなみに、普通女の子が『してくれや』なーんて言い方はしない。


さんの場合』

毎度ながらさんの方はさんより幾分かマシである。
少なくともメインコーチがサブコーチや生徒をいびる心配はまるっきしないからだ。

しかし、日頃おとなしいサブコーチが突如パニックを起こすような場合はいかんともし難かい。


さんが頭に致命的な一撃を食らって悶え苦しんでた頃、
さんはいきなし憧れの人と化した千石氏とのんびり雑談なんぞを交わしていた。

「へー、ちゃんってあそこのガッコの高等部なんだー。」
「はい…」
「そっかそっか、どうりで可愛いと思ったよー。あそこのガッコ、可愛い女の子多いもんねー☆」

さんは思わず『行ったことあるのか』と内心突っ込みを入れる。

「いっぺん、中学の時練習試合で行ったことがあるんだけどね。いやー、なかなかよかったよ。
懐かしいなぁ。」

さては練習試合じゃなくて可愛い女の子が懐かしいんだな。

千石氏の顔つきがえらくダラケてたのでさんはちょっとムッとしてそっぽを向く。

「あれれ、ちゃん、何か怒ってる?」
「別に…」
「あ、もしかしてやきもち焼いてくれてるのかな?」
「違います!」
「そんな照れなくてもー。」

何だか青春の一コマって感じのその時である。

 カサカサカサ

「キャッ!!」
「わっと?!」

急に足元でした音に、さんは思わず叫んで飛び上がった。と同時に

 ドターンッ バタッ

隣に居た千石氏もびっくりしてベンチから転げ落ちる。

見ればさんの足元を虫さんが這いずり回っていた。

とは言うものの、別に著しくデカくもなけりゃ無駄に体が長くもなく
まして誰もが悲鳴を上げそうな家庭内害虫の類ではない。
言うなればコオロギかなんかみたいなヤツである。
(この場合季節のことを突っ込んではいけない)

では何でさんはこんなに大げさな驚きを呈したのか。

………実を言うとさんは虫の類が大の苦手だった。

ゴキブリ・蚊・蝿みたいな奴らは勿論、蛾もダメなら、普通の人は愛でるであろう蝶々ですら
自分の側を飛ばれるのは我慢がならない。

もし彼女が剣術を知ってたなら側を通る虫をことごとく斬り捨ててたに違いない。
それくらい虫は少女・ の天敵なのだ。

「もうっ、何でいきなり虫なんか出るのよ!!」

さんはついつい地を丸出しで声を上げた。

「大嫌いなのに!」
「あの〜…ちゃぁん…」

そこへ千石氏がやや間延びした声で言う。

「どいてもらわないと苦しいんだけど…」

言われてさんはハッとする。

あろうことか、彼女は千石氏にしがみついてしまっていた。

『………………………。』

しばしの沈黙。

「す…スイマセンっ!!」

さんは大慌てで自分のメインコーチから離れた。
勿論心臓はバックンバックン、顔からは火が出る思いである。

「いいよいいよ、気にしないで。俺もラッキーだったし。
「え?」
「いや、こっちの話。ところでさっきのアレ、何の虫だったのかな?」
「何か一瞬、ゴキブリかと思ったんですけど…」
「うああああああああっっっ!!」

突然の奇声にさんはギョッとして振り返った。

一体、どうしたのかサブコーチの鳳氏が頭を抱えてパニクくっている。

「ど、どうしたんですか?」

生徒が尋ねてるにも関わらず鳳氏は聞いてない。

「どこ?!どこなんですか、ゴキブリはっっっ!?」

目が血走ってんじゃないかと思うくらいすんごい勢いで辺りを見回している。

あまりにもいつもと様子が違うのでさんは沈黙するしかない。
どうしたらいいのか、とメインコーチに目配せすると千石氏も人差し指で頬をカリコリしながら
冷や汗をたらしている。

「ありゃりゃー、完璧に昨日のが精神的外傷トラウマになっちゃってるなー鳳クンは。」
「………昨日ゴキブリが出たんですか?」
「うん、コーチ室にねぇ…それはともかくどうしたもんかな。」
「コーチ室に?」

さんは千石氏がチラと言ったことに反応するがそれどころではない。

2人が話してる間にも鳳氏のパニックは進行し、終い目にはガックリと地面に膝をついて
『うっあっあっあっあっあっあっ…』とか何とか呻くところまで来てしまっている。

「あーあー、こりゃ俺が止めるしかないねぇ。」

とうとう千石氏がため息を吐いた。

「御免ね、ちゃん。ちょっと行って来るよ。」

そーゆー訳で千石氏はパニックのひどい鳳氏をなだめにかかった。

始めは普通に呼びかけ、鳳氏が聞く耳を持たない(持てない)状態だと分かるや否や
とうとう日頃自分がやられてるよーに羽交い絞めにしながら耳元で何やかんや言う。

何だかなぁ。

奇妙な光景を目の当たりにしながらさんは思った。

千石コーチに止められてるよーじゃ、どうしようもないね。

……ちなみに鳳氏が正気を取り戻すのに、10分以上はかかったという。



何か訳のわかんないことがあった時には、休み時間に友と愚痴りあうのが有効である。

「………で、そんなことがあったらしくて鳳コーチがパニックになってさ、ちょっと大変だったよ。」
「何と!あの鳳さんがねぇ…。うちはうちで俺様にーちゃんが変にいつもより親切やから
不気味で不気味でしゃあなかったわ。」
「千石コーチに聞いたら、乾さんだけ呑気にみんなのデータ取ってたらしいよ。
それで跡部さんはずっと怒ってたって。」
「………どーりで、跡部のにーちゃんが今日は乾さんに当たってると思たわ。」

さんはそれで納得がいった、と小さいペットボトルのミネラルウォーターを口に含む。

「しかし、何で乾さんに当てるつもりの球が私に当たるんかな?
私がミスったら罵倒しまくるくせに、んまにあのにーちゃんはっ!」
「それでさっきからアンタ、頭さすってたのか…」
「だってメッチャ痛かってんでー?何たって腐ってもあのナルシストさんの打球やったからな。」
「腐ってもってアンタねぇ…」

友の命知らずな発言にさんはオレンジサイダーの缶を開けながら、
こいつその内コーチ本人に首と胴体を分離されるんじゃないかと思うが
言っても無駄なので黙っておく。

「せやけどさぁ…」

さんがため息混じりに言った。

「大のにーちゃん方が揃いも揃ってゴキブリで大パニック起こしてたってのもどーなん?」
「面白そうだけど。想像したら。」
「おいおい…」

さんの頬を冷や汗が伝う。

「せやけどそれで鳳さんはトラウマ、俺様ナルシーは乾のにーちゃんに八つ当たり、
おかげでこっちはちょーし狂いまくりやのにええんかいな。」
「千石コーチがいるからいいの。」
「ぬあーっ、それは私に対する嫌がらせかーっ!!!
こっちはあの跡べーに迷惑させられてるってーのにー!!」
、後ろ。跡部コーチがいるよ。」
「!!!!!」

さんの一言でさんはバッと後ろを振り返る。

「嘘だけどね。」

本気で焦ってる友を見てさんは面白そうに呟く。

 ピキッ

さんは一瞬凍結した。
氷結果汁なら美味しいかもしれないが、生憎さんは果物ではない。

ーーーーーーー!!!」

いくらなんでもあんまりな所業にさんは抗議の声を上げた。

「アンタも鳳コーチとおんなじくらいトラウマになってるわね。」

しれっとした顔でオレンジサイダーをコクコクと飲むさんの横で
さんはへなへなとへたり込んだ。

只でさえ、不気味な目に遭ってるのに友までこれじゃあたまったもんではない…。


その後のさんとさんの様子は以下のとおりである。

「おら、もっと体曲げろ。押してやるから。」
「は、ハァ…。気色わる…
「ふむ、どうやら握力の他にも柔軟を何とかする必要があるみたいだな。」
「テメーは喋るなっ、ドリアン野郎!!ムカつくんだよ!!」
「コーチ、怒鳴るんやったら私に唾飛ばさんといてください…」

「大丈夫、鳳クン?」
「ええ、何とか。どうもご迷惑をおかけしました。じゃあやろっか、さん。あれ、どうしたの?」
「あの、さっきゴキブリがいたような。」
「……………(ビクウッ!!)」
「あーあ、また固まっちゃったよ。おーい、鳳クーン。石化してる場合じゃないよー?
 ……ダメだ、こりゃ。」



そして、今日のレッスンも終わりを告げる。

「どーも有り難う御座いました。」
「ま、今日はよくやった方じゃねぇの。その調子でやるこったな。」
「は、はい。」
「気をつけて帰るんだよ、さん。最近は胡乱な奴が多いからね。」
「胡乱なのはテメェだ、このバカヤロ!」

 ゲシッ ゲシッ ドギャッ

「じゃあ、さん。気をつけて帰ってね。」
「はい、有り難う御座いました。」
「あーあ、今度ちゃんに会うのは日曜かぁ。待ちきれないなー。」
「はいはい、子供みたいなこと言わないでください、千石さん。」
「鳳クーン☆ ゴキブリ…」

 ギャアァァァァァァァァァァ!!

そうしてさんとさんは2人して

『(いくらゴキのせいとはいえ)今日はどーなってんの』

と思いながら帰途に着く。

いつもより優しい跡部氏、生徒の代わりに虐待された乾氏、
トラウマのせいで暴走する鳳氏、珍しくストッパーを務めた千石氏。

そんないつもと違う金曜日、明日はどうなるかは誰も知らない…。


(おまけ)

「おいっ跡部!どないしたんや、一体?!」
「うわぁ、この倒れ方…誰かが青酢飲ませたんだにゃ!」
『…………………。』
「俺じゃないよ。」
『嘘吐け!!!』

To be continued.


作者の後書き(戯言とも言う)

おちゃらけ、ドタバタ、やりたい放題。
もー後ろ向き発言しとらんと自分の思うとおりに書きまくったる!!

ってな訳でスランプから脱出してやっと更新です。

初めてのひどいスランプだったんでギャグのキレが悪いなー、と
自分では思ってたんですが、友人には『全然そんなことない』と言われました。
(その証拠に、これの書きかけを見せたらずっと笑ってた)

ついでに、彼女はこのシリーズみたいなノリの夢小説にはついぞ会った事がないそうです。

……そういや、私も見たことないな(笑)

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